庭木の刈り込み剪定、ハサミかバリカンか?
枝葉を密に育てて円筒形のシルエットにしたり、生垣状にしたり。
和洋問わず定番の刈り込み剪定ですが、使う道具は何が適しているのでしょうか。
※職人さんではなく、一般の方向けに述べてゆきます。
刈り込み剪定の道具
定番はやはり刈込鋏でしょう。
一口に刈込鋏と言っても、長さ、素材、刃のつけ方や形状など、色々なタイプがあります。
職人は、伐る対象の直径や硬さなどによって使い分けています。
それに対するは、文明の利器バリカンです。
こちらは「トリマー」とも呼ばれますね。
写真の充電式や電源コード式、エンジン式のものが流通しています。
さて、どちらを使うのが正解なのか?
否、正解不正解の話しではありません。
どんな道具も長所短所を考えて使いたいですよね。
フラットな目線で洗い出してみましょう。
刈込鋏とバリカンの比較
①切り口の滑らかさ
鋏もバリカンも同じ刃物だから同じかと思いきや、結構違いが出ます。
まずはバリカン使用の切り口はこちら↓
次に鋏で切ったもの↓
いかがでしょう、鋏のほうがささくれておらず滑らかですよね。
※同条件で切っており、バリカンはパワーが十分で刃も鈍っていないものを使用しました。
切り口が滑らかということは、その枝が枯れる可能性を低くでき、木にやさしいということです。
見た目にもささくれ立っているのは良くないですよね。
切り口の滑らかさにおいては、鋏に分があります。
②価格と維持費
鋏については、下は1,000円台から、上は10万円!などという業物まで幅広いです。
が、一般的に5,000円~15,000円も出せば実用的には十分ではないでしょうか。
メンテナンスについては、研ぎ石も安価であり、研ぎ方もそこまで難しいものではありません。
研ぎ続けて使えば永く使えますし、維持費用は比較的安いものと思います。
一方バリカンについてはどうでしょう。
前述した動力の種類、強さ、刃の長さによって、数千円~数万円とこちらも様々です。
太い枝もこなせるパワフルさまではいらないよ、という一般の方ならば2万円以内で収まるのではないでしょうか。
メンテナンスについては、刃数が多いので研ぐのは面倒であり、替刃も数千円はしますから、鋏より維持費用がかかりがちです。
お金の面で安く済むのは鋏ではないでしょうか。
③習熟スピード
鋏とバリカンと、どちらが慣れやすいのでしょう?
一般的なイメージだと、鋏のほうが難しく思われることでしょう。
実際のところちゃんと使うためにはコツがいりますし、熟練の職人の鋏さばきは「上手い」です!
かといって、バリカンが簡単かというと、そうも言い切れません。
枝葉の流れに沿った動かし方、動かす適正スピードなどのコツがあります。
とはいえ、刈り込み剪定経験ゼロの人が始めたとして、多数の人が慣れやすいのはバリカンです。
バリカンの方が習熟スピードは早いと言えます。
④作業効率
実のところ、刈込鋏も仕事の速さではひけをとりませんし、うまく使えばマラソンのように刈り続けられます。
熟練した職人さんほどそう言うのではないでしょうか。
そう、それはあくまで「熟練」の話しであって、万人にあてはまるものではありません。
何だかんだ言ってもバリカンの方がラクです。
例えば、長さ5m程度の生垣を鋏で手入れしても、バリカンで手入れしても、人によっては作業スピードも疲れも大差無いでしょう。
しかし、それが長さ30mとなればどうでしょう?
やはりバリカンの方に軍配が上がるはずです(というのが一般的でしょう)。
また、刈込鋏はどうしても肩回りの筋肉を使うので、とても体が温まりやすいです。
ゆえに、真夏の刈り込みは地獄です!
⑤安全度
どちらが危ないかというと、バリカンの方が扱いに注意を要するでしょう。
その由縁は、片手で使えてしまうかどうかが大きいです。
刈込鋏は両手で扱わないとどうにもなりませんよね。
一方バリカンは、大きさと腕力によっては片手でも扱えてしまいます。
※ほとんどのメーカーの説明書にはあくまで「両手で保持すること」という注意書きがあるはずです。片手保持は「禁じ手」というご認識をお願いします!
そのまさに禁じ手ですが(笑)
庭木のゴミを左手で払いながら、右手でバリカンを扱う
なんて状況、実際にあるのではないでしょうか。
疲れていて誤って左手に刃を当ててしまう、なんて事故は結構あります。
他の例として、大型の重いバリカンを使用していて、疲れてきた時に太ももなどの足に刃を当ててしまう、なんとこともあります(私はやりました・・・。)
バリカン VS 刈込鋏 まとめ
①切り口の滑らかさ 勝者:鋏
②価格と維持費 勝者:鋏
③習熟スピード 勝者:バリカン
④作業効率 勝者:バリカン
⑤安全度 勝者:鋏
という結果と相成りました。
が、白黒つけるのも違うと前述したとおり、どんな状況や人に適するのかをまとめてみましょう。
刈込鋏が適している
お手入れする庭木が小規模である
趣味的に、鋏を扱い慣れていく過程も楽しみたい
仕上げのきれいさにこだわりたい
道具にかけるお金は少なく済ませたい
できる限り危険度の低い道具を使いたい
バリカンが適している
お手入れする庭木が大規模である
仕上がりのきれいさはそこそこで構わない
道具にお金をかけてもいいので、とにかく手間を省きたい
道具のリスクを理解したうえで扱える方だと思う
こんなところでいかがなものでしょうか。
番外編:バリカンは邪道?
職人の中には「バリカンなんて使ってる奴は職人じゃない!」とまで言う人もいます。
その根拠を聞いてみると・・・。
①職人らしくないから
確かに、昔ながらの藍染の半纏、股引、手甲、脚絆、地下足袋という正装にバリカンは不似合いかもしれませんね。
鋏一丁小脇に抱え・・・なんて方が格好良いのも分かります。
逆に言えば、一般の方にとっては「どうでもいいこだわり」とも言えます。
②作動音が邪魔だから
これはエンジン仕様のバリカンのことなら、ご近所への迷惑ということで納得できますよね。
しかし、私が経験したのは電動バリカンの作動音のことです。
とある親方のもとで働いていた時のこと。
私が充電式バリカンを使用していたら、親方から
「おい、ラジオがいいとこなんだからよぉ、バリカン鳴らすんじゃねえよ」
と言われました(笑)
そもそも、仕事中にラジオを大音量で聴くという習慣自体がどうなのかと・・・。
他にも「職人同士の会話の邪魔だから」と言われたこともありますが、ラジオの件と大差無いですよね。
趣味ならいざ知らず、業務としてはいかがなものかと思います。
③刈り込み剪定自体が邪道だから
刈り込み剪定の真逆に相当する「透かし剪定」や、一見刈り込みのように見えるけどそうではない手入れもあり、「それこそが職人の仕事!」とする気持ちは分からんでもないのですが・・・。
←透かし剪定の一例
葉が揺れて柔らかな印象ですね。
個人的にも、自然の木のような仕上げになる剪定が好みであり、そんなお仕事ばかりなら楽しいなぁとは思います。
ただし、そのような剪定は技術も時間も要します=お金がかかります。
例えば、「お庭にお金をあまりかけられない or かけたくない」というお宅の剪定を任されたとして
「是非透かし剪定にしましょう!お代は倍になりますが!!」
なんて無理強いできませんよね(私は無理です)。
結局のところ、庭木の仕上げというのは個人的価値観で良し悪しが決まります。
「刈り込んでまるーくなったのが綺麗じゃあねえか」という人も少数ではありません。
そんな人に「それは邪道なんです!」というのもちょっと違うのでは・・・。
プロの皆さんは一般の方の気持ちを汲んでいただきたいですし、一般の方はプロの押しつけを鵜呑みにせず、自分に適した選択をしていただければと思います。
記:稲垣
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