自分で木を切る際のリスクと対策を考えてみる【一般向け】
様々な事情により、木を伐らなければならないこともあることでしょう。
道路に枝が突き出ている、落葉や虫の苦情、日陰になる、枯れて倒れそう・・・などなど。
そんな時、体が動く人ならば業者に任せるのではなく、自分でやってしまう人も多いようです。
今回は、そのような一般の方が木を伐る際のリスクを考えてみましょう。
まずは伐採の事故事例を見てみよう
伐採の危険さを知るのにお手軽なのは、ネット上の動画を見ることです。
「伐採 失敗」 「tree cutting fails」
こんな言葉で検索してみてください。色々な事故事例が出てきますよ。
色々ありますね・・・。
※動画は「こんなことがありうる」という事例を知るには良いですが、「伐採の方法」を学ぶには不適です。しっかりした指導者のもと、適切な教育を受けることを強くおすすめします。
では、一般の人がやってしまいそうな失敗事例を挙げてゆきましょう。
予想外の方向に倒れてしまった
動画で最もよく見る事例です。
伐り倒してみたら、予定していた方向とは別の方へ倒れてしまい、その先には家や車が・・・。
笑っていられる程度ならいいのですが、人に当たったり電線を切ったりという、人命や公共インフラに重大な影響を与える事故も多いにありえます。
また、伐っている途中で木が縦に裂けながら複雑な動きをしたり、思った方向に倒れたと思いきや地面から跳ね返った木が暴れたり、ということもあります。
これらの原因は、一言で言うならば「伐り方の間違い」です。
日本では法律に基づいた「伐木等の業務に係る特別教育」という講習があり、そこで基本的なチェーンソーの扱いなどを教えてくれます。
自己流ではなく、まずはそこで基礎的な知識と技術を習得するのを強くおすすめします。
かといって、それで全ての伐採が安全にこなせるわけではありません。
広い場所に真っ直ぐ生えた木を伐り倒すだけなら苦労はしませんが、現場では色々なパターンがあります。
木の状態(枯れ、ツルが巻いている、重心の偏りなど)、倒した先の地形(斜度、凸凹など)など、現場に合わせた伐り方をしなければなりません。
↑最初に伐倒方向を決定づける「受け口」を作成しているところ。伐る手順にはスタンダードが確立されていますが、現場では応用も求められます。奥深いのです!
伐る人の落下
・足場にしていた木の枝や幹が揺れて落ちる
・枯れた木に登っていて、折れて落ちる
・木に立てかけたハシゴに登っていて、枝を落としたらハシゴに当たってしまい、ハシゴが倒れて落ちる
落下にも色んな例がありますね。
特にハシゴ伐採は素人さんがやりがちですが、これだけはやらないでください。
私達業者もハシゴを使うことはありますが、
・ハシゴはアプローチ手段として使い、ロープなどの器具により自己確保や足元がしっかりしている
・ハシゴが安定しており、かつ自己確保ができている
・伐る枝が片手で簡単に保持でき、完璧にコントロールして投げ落とせる程度の重さである
というような条件でないと使いません。
そもそも、ハシゴに乗りながら両手でチェーンソーを構えるのはかなりバランスが悪く、踏ん張れないものです。
すなわち、
体制が悪い→正確に刃を入れることが難しい→伐った材のコントロールができない
ということであり、体制がつくれない時点でもう失敗しているようなものです。
そして「ロープを使う」と言っても、適切な器具を適切に使うにはお金と時間がかかるのもお忘れなく!
↑スパイク状の履物で幹に足を固定し、腰からのロープで体制をきめて、他のロープですぐに降りられるようなシステムも組んであります。そして体幹力が試されます!
落下物による怪我
木の下にいる人は常に落下物の危険にさらされています。
枯れ枝、木登りしている人の道具、伐った木、木の切り屑など、色々なものが落ちてきます。
・作業前に枯れ枝が引っかかっていないかの確認をする
・登って伐る人と地面にいる人同士で、しっかり声をかけ合う(上下作業をしない)
・伐る人以外は、木から余裕をもって離れる
・ヘルメットや保護メガネで万が一に備える
といった対策が有効です。
チェーンソーによる自損
これはどんな人でも必ずやります。
小さな傷で済めばラッキーですが、肉をえぐっていくチェーンソーの傷は大概酷いものです。
まずは先ほど紹介した「伐木等の業務に係る特別教育」を受講することです。
もう一つは、保護具を身につけることでしょう。
最も切ってしまいやすい下半身用に、「チェーンソー保護パンツ」や「チャップス」というものが売っています。
硬いもので刃から守るのではなく、特殊な綿をチェーンに絡ませることで刃を止めてしまう、というものです。
↓アウトドアウェアの日本メーカーであるモンベルのサイトでは、その効果を動画で紹介しています。
ちなみに、業務使用では着用義務となっていますが、私用では義務ではありません。
↑暑くて重くて決して快適ではありませんが、チェーンソーの恐ろしさを知ってしまうとこれ無しではいられません。
また、万が一への対処として止血の処置も知っておくと良いですね。
各種団体が主催していますが、元山岳ガイド&パトロールとして色々と受けてきた私としては、日本全国の消防署で開催している「救命講習」がおすすめです。
私が実際に受講してきた記事はこちら↓
この「上級救命」という丸一日のコースでなくとも、「普通救命」3時間でもいいと思います。
現場に出ている消防隊員による実践的な講習が無料で受けれるなんて最高です!
初心者向けに優しく教えてくれるので安心ですよ。
足元の危険
木が生えているのは歩きやすいところばかりではありません。
崖や急斜面の上や川べりだったり、岩が転がっていたり、ぬかるんでいるかもしれません。
大したことが無いように思うかもしれませんが、こうした悪条件による転倒滑落は意外と多いものです。
伐採作業は重労働で注意散漫になりがちですし、チェーンソーを持ちながら転ぶと受け身も取りづらいものです。
一番の予防法は、計画に余裕をもつことです。
そうすることで焦らず済みますし、疲れ過ぎないようにゆっくり動くことに繋がります。
チェーンソーの騒音と振動
ちょっと使うくらいならともかく、半日ずっとチェーンソーを振り回せば耳も手もダメージを受けるものです。
エンジンの音と振動を甘く見てはいけません!
・イヤーマフ(耳に被せるもの)や耳栓を使う
・手のひらにパッドが施された防振手袋を使う
・使用時間を短く、休憩を多めに入れる
・電動のチェーンソーを使う
といった対策があります。
↓当記事の「バッテリーチェーンソーのメリット」の章にも述べていますので、お目通しくださいね。
また、騒音により他人とのコミュニケーションが取りづらいのも、過小評価できないリスクでしょう。
↑ヘルメット装着型のイヤーマフ。
これも暑いし重いしでつけたくありませんが、エンジン工具を扱う時は必須ですよ。
動植物による被害
筆頭に上がるのは蜂です。
いるんですよ、樹上にも、根元にも・・・・。
彼らは雨風がしのげるところならばどこでも巣をつくります。
木の根元が空洞状の「ウロ」になっている中や、繁った枝葉の中など、それを全部確認するのは不可能です。
一番良い方法は、時期をずらすことです。
活動が活発ではない冬や春のうちに作業してしまいましょう。
どちらにせよ夏の伐採なんて暑過ぎてやっていられませんしね。
また、ウルシなどの植物の毒も厄介です。
肌を出さないのが鉄則ですが、防ぎきれない時もあります。
↑びっしり巻いたツタウルシ。
これを木登りしながら除去した後は最悪でした。
何日も全身痒くて寝られず、医師による処方箋でどうにか治まりましたが、2度とやりたくありません(笑)。
木の伐採は高コストな作業
さて、様々なリスクとざっくりした対処を述べてきましたが、木を伐るって大変ですね!
そもそも、樹木という重く巨大で予想外の動きをするものを、チェーンソーという破壊力抜群の工具で伐っていくわけですから、安全なわけがありませんよね。
それを安全にするためには、人と時間とお金という多大なるコストがかかるということです。
結局、自分で伐採するということは・・・
ありきたりな文句で恐縮ですが、装備もスキルも持ち合わせていない一般の皆さんは業者へ依頼したほうが安く済むかもしれません。
例えば、数万円かけて道具を揃えて作業していたら、足を折って1年間のリハビリ・・・なんてこともザラなわけです。
「大きなカラマツを伐採したら電線を切ってしまって、周りにえらい迷惑をかけてしまった」なんて人も実際にいました。
賠償金はどのくらいだったのか、そもそも保険は適用になるのか、考えたくもありません・・・。
おどすようですが、数万円をケチった結果が一生を棒にふることもありうるのが現実です。
リスクの話しではありませんが、伐った材の片づけも実はとても苦労するんですよ。
私はこのお片付けが毎回憂鬱です(笑)
一般の皆さんが伐れるサイズの木は?
せいぜい高さ3m程度(一般家屋の2階の床くらい)、根元の直径は20㎝くらいまででしょうか。
それならば、ホームセンターの手ノコギリでも頑張れば伐れますし、人力でコントロール可能な範囲の重さだと思います。
注意:もちろん周囲の状況のこともあるので一概には言えませんし、事故は大いにありえます。
以上、一般の皆さんに向けて樹木伐採時のリスクをお伝えしました。
悲しい事故を起こさないよう、無事に作業を終えることを願っております。
そして、大きな木は存在価値があるものですから、伐る前に本当に伐っていいのかも考えてみてくださいね!
記:稲垣
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